「じゃ、後は宜しくね」
「ういっす」
先に上がっていった先輩の背中を見送りながら、俺は店内の時計をちらりと見た。2つの針は丁度真上を指そうとしている。
――そろそろ来るかな。
そう思った時だった。
入店を告げる電子音と共に、180cm台の長身の老人が入ってきた。
歳は50から60だろうか。それにしては背筋もしゃんと伸び、着ているものも縦縞の濃い茶色のスーツに茶色の革靴に黒のクラッチバッグ、そして手首に光る高級腕時計とお洒落である。歳には勝てないのか後退気味になっている白髪をきっちりと後ろへ撫で付け、老眼なのか金属フレームの眼鏡を掛けている。見るからに勤め人というこの男は、金曜日の深夜にしか来ない常連客だ。
欠伸を堪えながらお決まりの文句を言うと、言われた男もいつものように軽く会釈をする。客と店員の間柄では、何の会話もない。男の方は名札で俺の名前を知っているが、俺は男の名前も職業も知らない。
しかし、男が買う商品は知っている。
「これを頼む」
「はい、『プレミアム羊羮』が一つ、『メガビッグボーイ』が一つ……」
そう、この男は羊羮とゴムを買うのだ。