「殺し屋だ」
まぁ、今日で引退するのだが、と言われてからさっき聞いた質問に答えてくれたことに気づいたのか、少女の目が見開く。
「運が良かったな」
「私が見ても、殺されないからですか」
恐怖心が薄れてきたのか、少女は数歩進んで近寄って来た。“タジマ”は大袈裟に息を吐くと、少女の視界を覆うように目の前に立った。
「私は仕事以外の殺しはしない主義だが、世の中の殺し屋全部がそうではない」
飛び血が着いた黒の革手袋を外し、死体の上に投げ捨てた。最後の仕事の標的は、組を裏切った末端の組員だ。世間が知らぬ内に革手袋と一緒に燃やされる。
背後で物陰から何かが出てきた気配を感じながら、“タジマ”は少女の両肩に手を置いて大通りに面した方に回転させた。
「後始末は頼んだぞ、オカダ」
強張る肩の筋肉を解すように撫でると、左肩に置いた手に少女の左手が重なった。
「師匠、目撃者がいたら斬れとも依頼の時に言われてましたよね」
「覚えてないな」
「……そうですか。なら、とっととどこかに行って下さい。早くしないと」ジャキ、と鯉口が鳴る。「その女、斬りますよ」
“タジマ”はその殺気に応えずに、少女と共に路地を出た。