返事を聞くと、男はそのまま無言で歩き始めた。男は慣れた様子で大通りを進み、人気の無い道へと進んでいく。気が付けば、住宅街へと入り込んでいた。住宅街と言えども、雑居ビルがポツンとあったりなかったりと、ちぐはぐさを感じる。地元である立香も何度か通っただけで、あまりここには詳しくない。男が言う喫茶店なんて本当にあるのだろうか、と不安が頭をもたげかけた時、男が再び口を開いた。
「断らないのか」
言葉とは裏腹に、また男の口元が緩んでいる。
「断ると思って誘ったんですか」
「まぁな」
「私も、断ると思ってました。けど、貴方のことが気になっていて、いつの間にかはいって言ってました」
「自分が何を言っているのか、分かっているのか」
薄暗い場所にいるせいか、こちらを振り向いた男の顔が良く見えない。怒っているのか、泣いているのか、それとも笑っているのか、立香には分からなかった。
「……いえ。でも、私の心のどこかに貴方のことが引っ掛かっているので、好奇心だと思います。……多分、ですけど」
「そうか」
そう言うと、男はまた前を向いて歩き出した。
(多分、)立香は息を吐いた。(恋、なのかな)