好奇心なのか、恋なのか、まだ若い立香にはどちらなのかは分からなかった。もしかしたらただの好奇心で、恋はただの勘違いかもしれないし、実は一目惚れしていて、それを好奇心だと思い込んでいるだけかもしれない。そのどちらでもない未知の感情だってあり得る。だが、1つだけはっきりしていることがあった。
「……この人になら、私の初めてを売っても良い」
思わず音になっていたその言葉は、横を通り過ぎた車にかき消された。
男は、立香が何故夜遅くに大通りにいたかなんて気にしていないようだった。だから、男は立香が体を売ろうと大通りにいたなんてことを知らない。ましてや、立香が親も親戚もいない一人暮らしの貧乏学生なんてことも知るよしも無いだろう。
だからと言って、本当に男に体を売る気はあるかと言えばそうでもない。今日だって、いざ大通りに行ったは良いものの、ただ歩いて時間を潰しただけだ。きっと、実際にそうなれば逃げ出すのが目に見える。
「着いたぞ」
言われてから初めて、いつの間にか下を向いていたことに気づいた。見上げれば、目の前には古びたビルがある。2階の辺りの壁から『喫茶・TRACE』と赤い看板が飛び出していた。