(は、早すぎる……返答が、早すぎる……)
質問の残弾が尽きた立香は、ぐったりと身を投げ出すようにテーブルの上に突っ伏した。それでも、頬に添えられていた大きな手は立香から離れようとはしない。今度は、耳の近くの髪をかき上げている。
「そんな事を聞いた、ということは、誰か好いている者でもいるのか」
頭上から降ってくる声は、どこか楽しげだった。
「……気になる人は、います」
「ほぅ、どんな奴だ」
話の続きを促すように、耳朶を優しく掻かれる。ぞわり、と耳の辺りの産毛が粟立った。むず痒いのに、嫌な気分には全くならないのが悔しい。
「初対面で、名前も知らなかったのにセクハラ紛いの言葉で口説いてきたり、許可してないのに勝手に触ってきたりする今日引退した元殺し屋です」
上からの言葉は何もない。代わりに、耳朶を好き勝手に触っていた太い指が動きを止めた。
「でも、どうしてかちっとも嫌な気にならないんです。それどころか、」立香は大きく息を吸った。「もっとしてほしい、って思うんです」
言葉も、動きも、何もない。
「一目惚れって、言うのかな」
胸が苦しいのは、きっと上手く息を吸えていないからだ、と立香は思った。