「当たりだ」
はにかんだ“タジマ”の顔を見てからというものの、立香の心は店内にはいなかった。暫くしてから来たココアは味が無く、“タジマ”が裏メニューがどうのこうのと言っていたが、立香の耳から耳へと通り抜けただけだった。
「立香」
「はい」
味のしないココアを飲みながら、立香は頷いた。
「今日はもう遅い。近くに私の家があるから泊まっていけ」
「はい」
頷くと、立香はもう一口ココアを飲んだ。今度は少しだけ、甘いココアの味がしたような気がする。
「ん?」
目を丸くする立香に、“タジマ”は口の端を上げた。
出会ってから半日も経っていないが、立香とはとても顔の表情がよく変わる。ずっと見てもこの少女なら飽きないのではないだろうか。“タジマ”が目を細めたことに気づいたのか、立香が不思議そうに此方を見てきた。
「で、どうする」
「えっと、その、私の家も近いですし」
段々小さくなる声が、冷水に思える。思い返せば、出会ってから直ぐに口説き文句を言っていた。幾ら相手が若者とは言え、我ながら性急過ぎる。ここは一先ず距離を置かねばならない。
「だから、その」
「ああ」
「明日、土曜日なので、いい、ですよ?」