ビルから外に出た瞬間、一際強い風が二人の体に当たってきた。
「うっ」
肩を強張らせ、引っ込まない首を引っ込めようとしているように見える立香に、“タジマ”は声を掛けた。
「入るか」
コウモリのようにコートの片方を広げてできた空間に、立香は返事もせずに飛び込んだ。“タジマ”も何も言わずに、ゆっくり歩き始めた。
夜も深くなり、車も通らぬ人気のない街に二人分の足音が響く。それは、注意してよくよく耳をすまして聞いてみなければ聴こえない、小さな足音だった。重くのし掛かる静けさに追いやられたのか、コートの中で隠れるように歩いている立香は少しでも音がしないように呼吸している。店を出るまではあれほど考えていた話題も、いつの間にか夜の闇の中へと消えていた。だが、それでも気まずさは感じない。むしろ、心地良いぐらいだ。それは、相手との信頼関係が築けて初めて得ることができる、唯一無二の空間だった。
だからこそ、立香の方はどう思っているのかが気になる。もしかしたら、自分一人だけがそう思い込んでいるだけかもしれない。
“タジマ”はコートの中を見た。立香は、少しはにかんでいた。
「どうしたの?」