“タジマ”の家は、喫茶店がある街の少し外れ、いわゆる郊外に建っていた。昔ながらの様式を残した日本家屋の一軒家は、マンションやアパート、洋式の一軒家といった周囲のせいで少しばかり浮いている。
「凄い……」
立香が感嘆の声を上げるのも無理はない。木製の門を潜ると、規模は小さいながらもちゃんとした日本庭園が広がる。“タジマ”の家は、裏庭ではなく表に庭のあるもので、ちゃんと見れば物干し竿もある。
「祖父の代からある家だ」
「へえ……」
“タジマ”の嘘に立香が気づく様子は無かった。
己の剣の道を更に極める為に山間にある故郷を去り、人斬りができる真っ当ではない世界に居続けた。この家も、そうして居続けたことによって得られた褒美の一つであった。まだ日本が好景気に浮かれていた頃、ある大きな『仕事』をやり遂げた“タジマ”に感服した客がよくやった、と自身が持っている家の一つをくれたのだ。もうその客もこの世にはいないが、家の権利を持っている“タジマ”には何ら関係の無い話である。
そう、昔の妻や喧嘩別れした息子のことなど、立香には何の関係もない。
滑りそうになる唇を噛み締め、“タジマ”は玄関の戸を開けた。