10年以上経っても、カルデアのマスターだという感覚は未だに抜けない。一番出るのは、夜、寝る時に電気を消してベッドに身を横たえた時。ふかふかのベッドなのに、どうしてかカルデアの少し固めのベッドを思い出してしまう。時々、まるで走行中の車の中みたいに揺れているような感覚がすることもある。世界はここにあるのに、近くに宗矩さんもいるのに、暗い宇宙の中に一人取り残されたような気がする。
そんな時、私はいつも宗矩さんに抱きついて、胸に顔を埋める。雷の日の夜に子供が親に抱きついて怖さを紛らわすように、私は夫に抱きつく。子供っぽいのは自分でも分かっている。でも、10年前のまだ子供だった自分にはそれが出来なかった。させて貰えるような環境じゃなかった。私は、大人扱いされて、大人として良いように扱われていた。
とくとくと、心臓の音がする。エーテルではない、本物の血が近くを流れてる。
「立香」
宗矩さんが主殿、と呼ぶ事は滅多にない。カルデアのマスターとしての任務の時だけ、呼んでくれる。だから、今私を抱き締めているのは、英霊ではない。私の旦那様なのだ。
「宗矩さん」
「……」
「愛してます」
「俺もだ」