特に目的もなく廊下を歩いていると、レイシフトから戻ってきたばかりらしいマスターが、何やら誰かと言い合いをしているのを見かけた。「平気です…!」「そうはいかぬ」何事かと思い近づくと、どうやらレイシフト先で怪我を負ってきたようだ。ぱっと見ではわからないが、脚だろうか?少し立ち方が不自然な気がする。「だから、これくらい…何ともないですってば!」少女は気丈にもそう言ってはいるが、ただでさえ厳つい顔を更に厳しくして少女の手を掴む男はひどく案じているようだ。「ほォ…これでも、か?」案じるあまり——容赦もなかった。するりと少女の脚へ手を滑らせると——おそらくは負傷した箇所と加減を的確に見抜き——ぐ、と指先で押し込むように力を込めた。「ひ、ぃ"…ぅッ」実に憐れな声を挙げて少女は崩れ落ちる…のを、難なく男は受け止めて、ひょいと抱き上げる。「初めから頼れば良いものを」「うぅ…ひどい…」ほんとにひどい。「フォーウ…」少女を抱えて足早に医務室へ向かう男の背に、少女に同情するような鳴き声は届かなかった。