――ここは、閻魔亭。人の身においては迷い込むしか術はなく、人以外であれば分け隔てなく迎える湯治の宿。そして、私たち二人が住み込みで働いている職場でもある。
「も~っ! 日帰り入浴ぐらい良いじゃない!」
「断る」
朝から閻魔亭出入口前の大橋から響き渡っているのは、鳥の鳴き声でも猿の鳴き声でもなく、剣撃でだった。
閻魔亭を背にして立って入館を断り続けているのは、剣聖との誉れ高い柳生但馬守宗矩。片や、先程から何故か温泉の入浴に拘り続けているのがここではない、別の並行世界からやって来た女性剣士・宮本武蔵ちゃんだ。
武蔵ちゃんは、特性上一度訪れた世界には二度と行けなかった。しかし、何だかんだあってサーヴァントになってからは出禁対象なのにしょっちゅうここにやって来ては追い払われている。最早温泉ではなく宗矩さんとの手合わせ目当てにやって来ているのでは、と紅閻魔ちゃんは言っていたけど、あながちそうかもしれない。
「昨夜も来ただろう。帰れ」
「かーえーらーなーい!」
その言葉に、ぴくりと宗矩さんの片眉が上がった。
「主殿」
「どうしたの?」
「……宝具の使用許可を」