「……で、甘味が欲しくなった理由を教えてくれ」
家に帰ってくるなり、宗矩さんはカンカン帽を脱ぐこともせずすぐに聞いてきた。
「その前に手洗いうがいでしょ」
「それを聞いたらする」
「手洗いうがいを二人ともしたら言います」
お互い強固な意思を持った瞳がぶつかり合い、私は宗矩さんの猛禽類の瞳に押し負けた。
「……その、カフェに行く前、接吻、していたでしょ? だから、宗矩さんの煙草の匂いが苦くて、で、甘いものでリセットしたくなって……」
年甲斐もなく、顔が赤くなるのを感じる。もう若くないのになんでうぶな反応をしてしまうのか、未だにわからない。
「そうか」
聞いて満足したのか、宗矩さんはカンカン帽を脱ぐと、洗面所へ向かった。熱いなぁ、なんて思いながら私もアクセサリーを取って洗面所で手洗いうがいをする。
「立香」
「なに?」
「抱き締めても良いか?」
「いいよ」
両腕を広げるとぎゅ、と宣言通りハグしてきた。心なしか、厚い胸板から聞こえる心臓の音のテンポが早い。
「もう少し、このままでも良いか」
「いいよ」
どうしてハグしたくなったかは分からないけれど、応えない理由は無いからいいか。