「おい! 柳生課長、今日からヒートケア休暇だって!」
「え?!」
時刻を過ぎても、中々来ない課長の身を案じ、人事部の方に聞きに行った同僚からもたらされたのは思いがけない報せだった。
「マジかよ……俺この資料出そうと思ってたのに……」
天を仰いでも、目に入るのはLEDライトの光だけ。離婚歴があるらしい課長は、男女の仲というものに興味がないらしく恋愛のれの字も今まで全くなかっただけに、この事態はまったく想定していなかった。
「課長、いつの間に番認定得ていたんだろうな……お前、知ってた?」
「知ってたらこんなヘマしねーよ。確かあれって役所の申請と会社への書類提出諸々込みで1ヶ月ぐらい掛かるんだろ? だとしたら最低でも1ヶ月前じゃねぇの」
「1ヶ月前……あ、」
見ると、同僚の顔が「あ」の顔で固まった。
「2ヶ月くらい前に、庶務課の新人の子が番認定申請したって聞いたな」
「え、相手は?!」
「それが人事でも上層部しか知らないってさ……」
「いや、まさか、な?」
「そうだよな?」
俺たちの乾いた笑いは虚しくオフィスに消えた。