いつも寛がせてもらっているその場所に今日は先客が、いた。珍しいこともあるものだ、決して表面上にはわかりやすく表さないがしかし警戒心を常に持っている男が、こうも無防備に眠っているとは。男の頭を膝に乗せてその髪を愛おしげに梳く彼女の顔は、恋する乙女のようでも慈愛に満ちた聖母のようでもある。「フォーウ」呼びかけると少女はやっとこちらに気づいたようで、困ったように微笑みながらしぃ、と人差し指を立てて口元に寄せた。「しあわせ、だよね」そうだね、その膝の上で寝たふりをしながら静かに口角を上げた男もそう思っていることだろう。「フォーウ…」これ以上はお邪魔できない、むしろ当てられるのはこちらだと、そっとそのしあわせ空間から立ち去った。