10年経っても、宗矩さんの心は私を見ていない。見てくれるのは、夜、私を抱く時ぐらいだろうか。それなのに、私は受肉させてまで宗矩さんと共に暮らしている。暮らさせるようにしている。10年前、一緒に暮らしたいと言った時、宗矩さんは2つ返事で受け入れてくれた。応えてくれた事への喜びで、子供は気づけやしなかった。死者であり、サーヴァントである宗矩さんを孤独にさせてしまうことに。だから、だからこそ。
『……良いのか』
あっち側は昼であるはずなのに、気難しそうな声をしているのは、私の要求が難しいものであるからだろう。
「良いです。もう、十分幸せを感じられました」
『そうか。だが、彼を受肉から解放するという事は、彼を殺す事だ。その事は十分に分かっているだろうな』
「はい」
『そして、今日の内にMr.ヤギュウに旅行の本来の目的を話しておけ。本人が拒否したら来るな。良いな、今日中だぞ!』
「えっ、えっ」
ガチャン、と切れたスマホを耳から離して、私はどうしたものかとため息をついた。
きっと、宗矩さんは忠義で拒むだろう。拒まれたら、行けなくなってしまう。一体どうやって説明すれば良いものだろうか。