宗矩さんと付き合うようになってから、気づいたことが幾つかある。例えば、気づいているのにわざと気づかないフリをすること。こっちが傷だらけになるのを覚悟で近づかなくては答えてくれないし、最近では耳は遠くないのに、聞こえないフリをしたり、物忘れなんてしていないのに自分に都合の悪い記憶だけ忘れたと言ってくるのだから厄介だ。
「キスマークなら100歩譲って怒らないけれど、流石に首筋に幾つも噛み跡があると怒るよ?!」
首に幾つも付いた噛み跡は絆創膏を貼ったり、ストールを巻いたりしてもギリギリ見えてしまう。これでは、外にも出られないではないか。
「はて、いつ付けたものか。……本当に私であるか」
身に覚えがありません、と宗矩さんは白けた顔で先に柳生カレーを頬張る。
「私が噛まれるのを許す人は宗矩さんだけなので、間違いありません!」
ごくり、と喉仏が動く。その動きは何故かとても珍美に見えて、喉を噛んでみたくなる。
「……あ」
「噛みたくなったか」
首筋を見せるように顔を反らすと、微笑んだ。
「私の体に痕を残しても良いのだぞ?」
熱に浮かされたように立ち上がると、私は宗矩さんに近づいた。