「すみませんが、先輩を起こしてきてくれませんか?お願いしますね、フォウさん」本日は何やら朝から忙しそうな少女にそうお願いされてしまっては、断れる筈もなく。頷く代わりにひと鳴きすると、腕の中から抜け出して彼女が先輩と慕う少女の部屋へと向かった。慣れた身のこなしで目的地へ滑り込むと、ベッドの上には——2つの、影。「——主殿を起こしに参られたか?」掛けられた声は、男のもの。肝心な部屋の主はすぅすぅとまだ寝入っているらしい。「フォウ!」「お勤め、ご苦労。だが主殿はお疲れでな…今少しばかり眠らせてやってはくれぬか」片腕で半身を起こし、もう片方の腕で眠る少女を抱き寄せその髪を緩々と梳かす男の眼差しはどこまでも穏やかで。そんな男に安心しきったように身を寄せる少女も幸せそうに眠っていた。確かにこのひと時を妨げるのは気が引ける。「フォーウ…」「はは…すまぬな」まったく、マシュには何と伝えたらいいのやら。精々2人揃って遅刻して怒られてしまえ、と呆れと諦めを込めた鳴き声に。自分とはまた違う——食えない獣は、ただゆるりと笑うだけだった。