サテライトで授業があるのは週に一度、水曜日だけ。他の日はいつものキャンパスで授業を受けたりバイトをしたり遊んだりで、わざわざオフィス街まで行くこともない。だから、自然とコーヒー屋さんを探す旅は水曜になる。そんな楽しみがあったから、行ってみたら休講だった今日はむしろツイてる気がした。
駅の方まで戻って、おじさんが消えた角を入ってみる。古ぼけたビルだったような、という記憶は正しくて、例えばガラス張りでピカピカしているような建物は全然なかった。自動ドアの代わりに煤けた銀色の引き戸、スーツのサラリーマンやOLさんの代わりにTシャツのおじさんおばさん。そして、紙の匂いがした。小さなワゴンに紐で括られた冊子が積まれていく。小さい印刷会社か出版社か、そういう小さな会社がひしめく町だった。
紙の匂いに乗ってコーヒーの香りがしてこないかな、とわんこよろしくすんすん鼻を聞かせていると、とある建物の前で一番強く香ってくる。看板はない。行きつ戻りつしたけれど、どうやっても一番そこが香りが強いし実際人の出入りもあった。
ただそこは、所謂文化住宅、と呼ばれる建物だった。
#雨とコーヒー