ここから見えるのは下駄箱と木造りの階段と廊下だけだった。建物は2階建て。はっきり言って、古ぼけているを通り越してボロい。一応人の出入りはあるけれどそんなに多くはないし、コーヒー屋があるにしてはテイクアウトしてくる人がいない。他のところかも、と思ってもう30分ほどぐるぐるとあたりを探してみたけれど、それらしいところはここだけだった。
「……毒を食らわば皿まで!」
なんか違うような気もするけれど、意を決して私はスニーカーを脱いで建物にあがることにした。
1階はあまり人気がない。奥の方の部屋ひとつだけテレビの音が聞こえてきたけれど、コーヒーの匂いはしなかった。これで誰か住んでいる人がコーヒー淹れただけだったりしたら、不法侵入だよね、これ……。わかってる。わかってるけど、それ以上に本当に何もないのか知りたい。
きしむ階段を踏んで2階に上がると、香りが強くなった。テレビやラジオではない、話し声が聞こえる。ひとつめ、ふたつめ、部屋の前を通り過ぎて、一番奥の部屋がそれっぽかった。相変わらず看板はなくて、他の部屋と同じく部屋番号が書かれた白いプレートが貼ってあるだけだ。
#雨とコーヒー