入ろうかどうしようか。悩んでいると、ぎいと扉が開いた。香ばしいコーヒーの香り出てきたのはずいぶん小柄で小さくてぶかぶかの服を着た、男の人だった。難しい顔をして私を見上げてくる。
「……学生証を出せ」
「えっ」
めちゃくちゃいい声だけどめちゃくちゃ横柄だなこの人。
「ええと」
「学生じゃないのか?」
かわいい系のお顔の表情がますます険しくなる。
「学生、です」
「それが本当なら不法侵入で通報したりはしないと約束しよう。こんなオンボロに何の用があって来たのかは知らんがな」
この人の言葉を信じていいかはわからないけれど、いずれにせよ私の方が分が悪い。リュックから財布を取り出し学生証を差し出す。
「藤丸立香。国際学部……2年か?」
その通りだったので頷き返しつつ、
「あの……」
「聞きたいことがあるんだろう?ここではあまり話をしたくないから中に入るといい。コーヒーぐらいは出してやる」
こいつ話聞かないなー!
遮られてむっとする間もなく、扉が大きく開けられる。果たしてその奥で、色白の美人がにっこりと『秘密喫茶 告解』と書かれた段ボールを掲げていたのだった。
#雨とコーヒー