畳敷き、多分8畳。広めの部屋ではあるけれどその一間だけだった。奥の方に本が山積みになった一角と、美人の前の大きめのちゃぶ台。それから、玄関側の壁にカセットコンロや電気ケトルの乗った調理スペース。真正面の大きい窓があって、晴れの日は気持ち良さそう。
「土足厳禁だ」
「あっ、はい」
促されるままスニーカーを脱いで、美人と同じちゃぶ台を囲む。
「お話いただくにしてもまずは温かいものがあった方がよろしいかと」
にこにことそう言った美人に、
「言われんでもいれる。お前は黙ってろ牛女」
「まあ。ひどいと思いませんか、ねえ……?」
あの人はいつもあの調子なのか……。
「誰に聞いて来たんだ?」
ぱちんと電気ケトルのスイッチを入れた男の人が聞いてくる。
「聞いてきたわけじゃなくてですね。ざっくり先週この辺にコーヒー屋があると聞いて、探検しにきたんです」
「……何を勘違いしてるか知らんがうちはコーヒー屋じゃないぞ」
「えっ」
「あくまで有料の人生相談所だ。相談一軒につき一杯ぐらいのコーヒーは出すがな」
にやり、と笑ったその顔が、それは建前だということを教えてくれていた。変なの。
#雨とコーヒー