「そもそも聞いてきたのではないと言いながらこの先にコーヒー屋があると聞いて、とは無茶苦茶だ。お前の言語力は壊滅しているのか?」
男の人が華麗に罵りながら赤い缶の蓋を開けると、コーヒーのいい香りがした。スプーンに1杯、2杯、測ってミルに入れる。
「あなたとは違ってよく人間ができたおじさまが、傘を忘れた私ににこやかに差しかけて駅まで傘に入れてくださったんですー。その時に、コーヒー飲みに行くっていうから」
少しばかり皮肉を入れつつ言い返すと、
「その男、背の高い、ちょっといかつい体と顔をしたじいさん手前か?」
ミル挽きの手を止め、少し意外そうな顔をして尋ね返してきた。
「おじいさんって感じはしなかったけど、劇渋イケオジだったのは確かですね」
「あらまあ」
見れば隣の美女も目を丸くしている。一体なんなの?
「おい、藤丸」
呼び捨てかよ、と突っ込む間も無く、
「その話、最初からもうちょっと細かく聞かせろ」
とせがまれる。
「俺たちが考えている御仁と多分同じ人物だがキャラクター像が一致せんのだ」
ニヤリと笑った男が豆をフィルターに入れて湯を注ぐ。コーヒーのいい香りが部屋に広がった。