大して話すこともないんだけどなあ…。
思いながらも、傘を持っていなかったところ差しかけて入れてもらった話をする。案の定、
「……それだけか?」
「それだけですよ」
「つまらん」
ほんと何なんだこの人……。
「イケオジだというからもっと何かいい話が出たのかと思っていたのだがな」
「例えば?」
「ありがたい社会人じみた話だとかさりげなく口説かれただとか」
なんだそれ。思いながら、出されたコーヒーを一口啜る。
私が知っているコーヒーとは全く違う味がした。
「えっ……これ、えっ」
「気に入らんなら残せ」
気にいる気に入らないの話ではなかった。さっぱりとしているのに薄くない、確かにコーヒーだけれど特有の味のきつさがなくなってするする飲める。
「おいしい……」
ちょっと呆然としながら呟くと、美女がすすすと近寄ってきた。
「お客様、これで共犯ですわね」
「えっ」
にっこりと微笑む彼女の顔が怖い。めちゃくちゃ怖い。一体何が混ざってたんだろう?
「うちが秘密喫茶なわけを教えてやろう」
ちっちゃい無礼者もニヤリと笑いながら自分のコーヒーを啜る。
「これやばいやつなんですか?」
#雨とコーヒー