「非合法なものは入っていない」
男の人がニヤリと笑う。
「が、どこにも申請をしてない」
「……お店出すのに申請っているんですか?」
つるっと聞いてから後悔した。
「そんなこともしらんのか--」
「飲食店を営むには保健所への届け出が必要だそうですのよ?」
近づいてきた美女が更にぐいと乗り出してくる。避けたものの倒れそう……。
「この姿形も器量もミニマムな方はどういうわけかコーヒーを入れるのだけはまあまあ才能があるのですが、それ以外がからきしですのでこのような日陰の暮らしをしているのです」
「この牛女のカウンセリングルームということにしているが、見ての通り人との距離が測れん不具合があってな。せめて飲物だけでも美味いものを、といったところだ」
「……仲いいんですか?」
「「誰が?」」
だから秘密で喫茶で告解なんだな……。とりあえず違法な飲み物ではなかったようでほっとする。
納得している中、こんこん、と部屋の扉が叩かれる。
「……はぁい、どなた?」
私に覆いかぶさったまま美女が返事をすると、
「柳生だ」
と、ほんのひととき交わした声が聞こえてきた。
#雨とコーヒー