家主の娘がくか、といびきをかいて眠りに落ちたタイミングを見計らって、そうっと用意された寝床を抜け出す。ベッドから死角になる、暗いキッチン兼廊下で人の姿になるとじわりと寒さが骨身にしみた。一宿一飯の恩義とはいうが、今夜の急な冷え込みとこの雨はそれ以上のものを感じる。
音を立てぬように居間へと続く扉を閉め更に玄関横の扉を開けると、思ったとおりそこがユニットバスだった。用を足して水を流す。聞き耳を立てても特に変わった様子もなさそうだったので、ざっとシャワーで流して先ほど拭われたタオルを拝借した。細心の注意を払いながら扉を開け、素早く居間の扉も押し開けておいて猫の姿に戻る。娘が起きる気配はない。なんとかやりおおせたようだ。
ほんの数分外しただけだったが、娘の寝姿はあられもないものになっていた。この寒いのに背中を出して、かけるはずの布団を抱きしめている。これではどちらが風邪をひくのかわからない。
危ない橋だとはわかっていたが、もう一度人の姿に戻って寝床を整えてやる。体を転がし、布団を引き剥がして掛け直すと、娘はくしゅんとひとつくしゃみをした。まずい。咄嗟に猫の姿に戻ると、娘の目が薄く開いた。