油断した。夜安全だったからといって朝もそうだとは限らないと、こうなってから知った。警部の大きな身体は押さえつけなくても私の動きを阻むのに十分だ。圧倒的に不利なことに加えて、
「藤丸」
いつもの静けさはそのままにうんと甘さを加えた声音で呼んでくる。
他の、例えばいい男ぶったような人がやったら爆笑してしまったかもしれない。でも今の私の背には確かに色欲ともいえるものが駆け上ったのだった。
まずい、と思う間にも警部は手指を休ませることなく私を苛んでくる。頬を撫で髪を梳き、黙って私を見つめている。ほとんど普段と変わらない顔をしているのに、何を請われているかは十分に分かってしまった。
困った。元々そんなつもりもなくハラスメントを受けているとも言えるのに、断固拒否する気持ちが湧いてこない。一晩温めてもらって情が移ってしまったんだろうか。あるいは、それだけ警部のやり口が巧妙ということなんだろうか。そもそも昨日の夜一緒に寝ないんですかなんて言ってしまったのは私だし、今も無理に押さえつけられるわけでもない。
いやでも断らなければ、と思った瞬間、ほんの少し甘えるように鼻先が触れてぐっときてしまった。