洗面からドライヤーの音が聞こえてきて、じきにドアが開く。リビングに入ってきたタイミングで、
「柳生さん、今日はもう出かけませんか?」
声をかけてみた。少し驚いたような顔をしていたけどさっきのお返しだもんね。
「ああ。適当に飯にして寝るつもりだが」
「お鍋つくったら一緒に食べますか?」
「いいのか」
「切って煮るだけですけど。鳥と野菜と、最後にお雑炊にしようかなって」
「食べる」
待っててよかった。とりあえず今入っている分は火にかけて一旦しまった諸々をもう一回出してちょっと多めにぶつ切りにしていると、
「どこかにカセットコンロがあるはずだが」
「ほんとですか」
「帰れる日はよくこたつで鍋をやった」
柳生さんがそんなことを言い出したので少し探してみたけれど、見つからなかった。ガスは見つかったけど、これだけじゃ使えない。
「明日聞いておく」
「お見舞い、一緒に行ってもいいですか」
尋ねると、柳生さんがじっとこちらを見つめてきた。
「正直に言う」
ああ、これは重めの言葉がくる、とわかった。柳生さんはしばらく間をおいてから目を伏せて、
「あいつがここに帰ってくることはもうない」
そう、告げた。