「え……」
「末期がんだ。医者から伝えられた余命よりは生きているが、そろそろ限界が近い」
淡々と続けながら、戸棚から取り皿を取る。
「来てくれるなら、あいつも喜ぶ。娘ができたと喜んでいたから。ただ前にあったときよりも大分やつれていることは知っておいてくれ」
かたかたと土鍋の蓋が鳴った。
「……すまん」
そんなの。そんなの、柳生さんのせいじゃない。けれど、私の口はその言葉を紡いではくれなかった。
黙々と夕食をとる。割と美味しくできた気はする。味がするから大丈夫。
「うまいな」
ぽつりと柳生さんがつぶやいておかわりをした。
「……良かったです」
「洋風も悪くない」
そう言いながらどんどん平らげていく。
「柳生さん」
その勢いに押されるように、少し聞いてみたくなった。
「うん」
「食べたくないなあ、食べられないなあ、っていうとき、ありませんでしたか」
「あった」
ついと器に口をつけてあおってから、
「食わんと動けんから無理やり食った。君の参考にはならん」
きっぱりと言い切られて途方に暮れる。朝走ったりすればいいのかな、とかぼんやり浮かんでは、まだちょっとしんどいな、とどこかが叫ぶ。