「仕事でもなければ生活が立ち行かないわけでもない。ゆっくりしろ」柳生さんが手を止めてこちらを見ている。お鍋が空になったかな、と思ったけれど、まだもうちょっと残っていた。もう一度見つめ合うと、「……心配されるのも窮屈かもしれんが」今度は柳生さんの視線が鍋に落ちた。「身体が温まらんと心も沈みやすい。食える範囲で食ったほうがいい」野菜だけさらえた柳生さんが私のお椀にすくい取る。はじめて、ぎゅっと拳を握ってしまっていたことに気がついた。
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