あれから。その一言で、あのときの気持ちが思い出されてしまって、息が詰まる。深呼吸しようとすると、むぎゅ、とアザラシを顔に押し付けられた。
「抱きまくらがあるんだから抱きついておけ」
じんわりと自分の体温がうつったこの子に抱きついていたら、なんだか泣きそうになった。せっかくもらったのに汚してしまう。顔を離すと、じっとこちらを見ていた柳生さんと目が合った。もう、真面目な顔に戻っている。だんまりのまましばらくして、
「ーー君がどうしようと、俺はかまわん」
柳生さんがそう言った。
「うちにいても学校に通っても働きに出ても、好きなようにすればいい。俺は、それを見守る」
まあグレて迎えに行く必要が出てくると困るが、と小さく付け加えて、
「周りがなんと言おうと、君のことは君しかわからん。君がしたいことを言えばいい。やればいい。気を使うな」
その淡々と、それでいてきっぱりした言葉の意味が頭に入るまでしばらくかかった。じんわりと染み渡ると同時に、鼻のあたりが熱くなる。
「……泣いてもいい?」
いい?って聞いてるのにもう泣いてる自分がおかしいけれど、それ以上にただ泣きたかった。わめきたかった。
「ああ」