まあ悪いやつではなさそうだったが戦いたくてうずうずしていたし、と続けて、
「まさか色恋に応えるとは」
ふふふ、と笑われる。全部お見通しだぞ、と言いだしかねないニヤニヤっぷりがどうにも居心地悪い。もうそろそろ、誰か呼んで部屋に戻した方がいいのかなあと思いながらぬるくなってきたゆず茶をすすれば、その甘さと香りに心底癒された。
ところがどっこい。
「色恋だったら色の話の方が僕は好きだなあ」
ふいっとやってきたアマデウスのおかげで話が変な方向に転がってしまう。
「マスターにはまだ早いんじゃないか?」
「いやいや、僕にはわかるよ。彼に恋していた頃は宝石のような輝きだったけど、今はビロードの艶が出ているからね」
ね?と笑いかけられても!顔が熱いから赤くなっているんだろう、荊軻も、
「へえー。マスターもあの男も隅に置けないねえ」
なんて、一度は助けてくれそうな感じがしたのにすっかりアマデウスの側に回っている。
「で、どうなんだい?為政者なんてのは大体僕に負けず劣らずろくでなしだからね!」