荊軻から盃をもらうとちゃっかり私と荊軻の間に腰掛けて飲んでいる。
「廊下で呑むのが当世流か、あるいはそういう文化がおありか」
「まあそんなところさ。月の頃は誰しもその姿を待ちわびながら飲むものだろう?そうこうしているうちにマスターが通りがかった」
そう。それが何故アマデウスが猫の目で待ち構える事態になってしまったのか。
「主は甘酒、ではないのか」
但馬がマグの中身を覗き込んできて、ふわりと衣についた香が漂った。先ほどとはまた違う意味でドキドキしてしまうからやめてほしい。
「ゆずの蜂蜜漬けをお湯で割ったやつ」
「僕は今の所手ぶら」
尋ねられる前にアマデウスが申告すると、
「こうして見るとますます調和するね」
先ほどよりもすこし暖かさのある顔で笑った、ような気がした。
「マスターがどんな音色を奏でるのか音楽家としては興味があるところだけど、聞いたら僕なんて死んでしまうだろうからやめとく」
相変わらずのジョークを飛ばしたアマデウスに、
「拙者以外には死の宣告となろうな」
但馬は物騒にも真顔で返す。正しい返しなあたり、結構途中から聞いていたのかもしれない。
「……でも鳴るんだね?」