「おじいさんはおじいさんでちが、あちきの知っているおじいさんはもっと優しくて穏やかな人でちた」
「何?あの方がお前様の想いびとなのでちか?」
「……おじいさんでちからね。いつまでもいてくれるとは限りまちぇん」
「今日の仕事はもうおしまいでち。当分夕方のお食事配膳終わったら上がりでいいでちよ。朝もお客様方が帰られたあとのお部屋の掃除からくるのでち。またお客様がお帰りになってからしっかり働くのでち」
「というわけでして」
「しかしそれでは」
「そう。感謝の気持ちが集まらないんだよね〜」
酒豪会から一人部屋に帰った但馬と女将に勧められるままとりあえず足を運んだ立香は広縁で語らっていた。野山の暗闇の中、閻魔亭へといたる橋の他はただぽっかりと月が浮かぶばかりであった。
「休むのも仕事、って女将に感謝するっていうのもなんか違うしね」
手を伸ばした但馬に先んじて立香が銚子を手に取ると猪口を満たした。
「かたじけない」
「いいお女中になったでしょ?」
にこりと笑った立香に、
「……このような感謝のされ方をするとは女将も思案の外であろうな」
ぼそりと呟いた但馬が杯をあおった。