月末処理、電車遅延、そしてこの寒さ。へろへろになりながらバーに向かう。もう年末だなんて信じたくない。今年のあれそれ今年のうちになるとかなるのだろうか、と遠い目をしながら半地下への階段を降りてドアを開ける。
「いらっしゃいませ」
マスターの声が聞こえて少しだけ気分が上向いたのもつかの間。扉の前までやってきたマスターに、
「すまん、今満席になったところだ」
と告げられて膝をつきそうになる。ちょっと、本気で、泣きそう。自分で思ったよりもだいぶん疲れていたみたいで、目鼻のあたりがじわっと熱を持ち視界が滲みそうで、慌てて少し俯いて視線をそらす。
「ただ、店に定員があるわけじゃない」
マスターが手を伸ばしてメニューを取る。
「疲れているところ悪いが、レジのあたりで立飲みで頼めるか」
その優しさが染みて、我慢してた涙がちょっと溢れた。
「あっ、ヤギューくん泣かせた〜」
目敏い教授の声がする。慌てて拭って顔を上げると、ぽすんとメニューが額に落ちた。
「一杯目は俺の、二杯目は教授のおごりだ」
「……ご馳走様です!」
あえて元気よく答えると、マスターの少し上がった口角が見えた気がした。