ふう、と息をついた立香がスマートフォンを置いた。
「終わったか」
ダイニングで新聞を読んでいたと思っていた夫に声をかけられてびくりとする。
「うん、とりあえずお昼までに目標にしてたとこは……ってごめんお昼過ぎてた!お腹空いたよね」
「空いていれば自分で作る」
読書用の眼鏡を外した柳生がひとつ伸びをして、
「……一緒に食えればと」
続けた言葉に立香は悶えたくなる気持ちを抑えて頷いた。
「何にしよう?」
「手早く食べるなら麺類だな」
「おうどんならある」
「月見、きつね」
メニューを出す柳生に近づいて、座ったままの男を抱きしめた。背中を大きく撫でる手は温かく、立香はほんの少し体重を預けた。
「……甘える気分か」
「んー……甘え半分愛しさ半分」
ふ、と柳生は吐息だけで笑うと、
「成程」
立香の腕を少し外して立ち上がる。それからぎゅ、とひと時しっかりと妻を抱きしめたあと、
「出汁はあったか」
抱き合って乱れた髪をひどく優しく梳いて、立香を赤面させた。
「……柳生さん、サービス過剰です」
「そうか?」
楽しげに笑う夫にまったくもう、なんて呟きながらも、まんざらでもない立香であった。