「……夜も更けたか」
「えっ」
立つ鳥跡を濁さずとばかりに片付け始めた但馬守の姿に、立香が思わず声を上げる。
「……部屋、戻る?」
「そのつもりであるが。何事かござるか」
当然とばかりに尋ね返された立香は口ごもった挙句、
「あしひきの、ながどりの尾のしだり尾の」
そんな和歌を呟いてみる。しかし、
「和歌か。下の句は如何様な?」
汲んではもらえなかった。
「……長々し夜をひとりかも寝む」
少しばかり、口を尖らせるような口調になったのは仕方がないだろう。それを聞いた但馬はというと、
「なるほど、秋の夜長なればひとり寝の時間も長く感じられようもの」
なおも柔らかく微笑むばかりである。
「だから」
「だから?」
見つめ合う瞳までいたずらに笑んでいるのだから、
「……わかっててやってるでしょ」
立香は恨めしそうに見つめ返す。
「はて。分かることといえば」
刹那、ぎらりと但馬の目の色が変わる。気圧された立香の手を眼の勢いとは正反対の柔らかさで但馬がとった。
「このままここで夜を過ごさば、御身の夜はますます長くなろうということのみかと」
立香が見つめ合ったまま、二人寝なら、とそっと手を握り返した。