落穂ナム
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満ち満ちていた潮のうねりも静まり、凪いだ海原に揺られるような心地で立香がうとうととまどろみ始める。とうに夜半を超えながら睦みあい、幾度も果てていたから無理もない。ただそれほどになるまで身体を重ねてもなお、但馬の肌が恋しいと見えた。寝返りを打ちかけては男の胸元に戻り、その髪が肌をくすぐる。
擦り寄られる但馬も悪い気はせず、しかし悪戯な毛先にやられるまいとその穏やかな寝顔を露わにするように手櫛で髪をなでつけてやる。首回りが少し寒いのか一瞬震えた立香の肩に布団をかけてやると、果たして子を持つ世の親というものはこのような心境であるかと妙な感慨が湧いた。
しかしこの娘は子ではなかった。いや、子だけではなかった、という方が正しいかもしれない。子であり、女であり、主人であり、妻であった。友かと言われるとそれは少し違う気がした。しかし、十分だ。
まどろむ娘の顔を見ながら但馬がそんなことを考えていると、
「たじま」
不意に立香がその名を呼び、但馬が応える間もなく、
「おやすみ……」
また肌を寄せてすっかり眠ってしまったようだった。穏やかな響きを思い返しながら、もう一度布団をかけ直した但馬も目を閉じた。

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ichinyo.site/但馬守に斬られたい人たち

「こっちに一如して」などと言っていたらドメインが取れることに気づいてしまったので作ったインスタンス