「こんなところだ」
「ご協力感謝いたします」
赴任したばかりの私では街や署内のパワーバランスなどわかるはずもなく。いきなり関係者が多すぎる案件を担当することになり、頭を抱えていた。おいおい覚えるにせよ、水先案内人が欲しい。
そう思っていたところに声をかけてくれたのが柳生警部だった。彼も5年ほど前に最後の任地としてここに来たよそ者だという。写真とともに、上下関係も含め立体的に人間関係を組み立て語る手腕に舌を巻いた。
「新任にわざと荷が重いのをふるのはここのお家芸だ。俺も先任の力を随分借りた」
「あ、他にもよそから来た方がいらしたんですね」
「もう死んだがな」
さらりと告げられた言葉にぎょっとする。
「君と、俺との間ぐらいの年の男だった。極めて勘の鋭い、いい腕をしていたが」
少しばかり勘が良すぎた。そう、淡々と警部は語った。 「君も気をつけろ。過ぎた踏み込みは正義以前に身を滅ぼす」
説明のために広げた資料を静かにまとめ差し出した人の表情は無しか感じられなかった。
「肝に命じます」
「それがいい」