「あっ、底値」
そう呟いた立香が肉を籠に入れる。先程葱と白菜も入れていた。今夜は鍋だろうか。
「お鍋……には早いかなあ」
「鍋でも煮物でも」
「煮物かあ」
じゃあ蓮根、と野菜売り場に戻っていく後ろ姿を眺めつつ、ならば焼酎でも、と酒売り場へ向かう。麦か、芋か、それ以外か。店の一角、さほど選択肢はないながらそれなりに選べる品揃えを前に思いを巡らせる。
「飲むの?」
いつの間にか戻ってきた立香も一緒に棚を眺めていた。
「週末だからな」
「いいねぇ。煮物、お醤油系でちょっとピリ辛にするつもりだよ」
「ほう」
となれば麦の方がよろしかろう、と選んで瓶を入れる。
「助かった」
「いいえー」
そのまま会計の列に並びつつ、
「でも何も言わずにうろうろするのはやめてください」
ちくりと叱られた。
「すまん」
まあ見つけられるだろう、という甘えがあったのは否めない。それに店の中のこと、迷子になる年でもない。
「その割にはすぐに見つけたな」
話をそらすと、立香の耳が赤く染まる。だって、という呟きだけ聴きつつ、籠を精算台に乗せた。