まだ目覚めからほんの少し遠くにいる立香が身じろいで、柳生は目を覚ました。枕元に放り出した携帯を見るに夜は明けた時間帯らしい。画面の明かりを落として女の髪をかき分けようとしたが、液晶画面を見た後の目には少々難儀するようだった。それでも、起こさないよう肩から顎、そこから輪郭をそっと辿って目的を果たす頃には、その目鼻立ちが闇の中に浮かび上がる。同時に薄く立香の目が開いた。寝ぼけ眼のその少し下、首の下に柳生が腕を差し込むと、ころりと柔らかな肌が転がり込んでくる。同じ匂い、同じ暖かさなのに離し難いのはどういう理由なのか、お互いがよく知っていた。
「……んんー……?」
抱かれた背中から更にその下におりる男の手に、立香が愉しげに頬を寄せる。
「朝からお盛んですねえ」
ちゅ、と音を立てて柳生の耳の下に口付ける。まだ目覚め切っていない小さな囁きは独特の甘さを湛えて枕の上に落ち、ゆらゆら寄っては離れるふたりと顔と吐息に散り散りになっていく。とうとう柳生の頭が離れて立香を上から見下ろす頃になるといささかはっきりとはしてきたが、それでもその甘さに変わりはなかった。