昼を大きくすぎた頃、ようやく報告書に一区切りつけた柳生が立ち上がる。今日はモリアーティーもホームズも出払っており、一人だ。建物の隅、景観などほとんどない窓から柳生は外を眺めた。
少し考えて、コートを手に取る。外で食ってくる、と一応総務に一声かけて、建物を出ようとしたところ、
「今からですか」
戻ってきたホームズに出くわした。
「ああ。遅れついでに揚げ物でも食いに行こうかと」
「みよしの天丼?」
「いや、三幸亭にしようかと思っていた」
過去形なのは目の前の相手が推したのが別の店だったからだ。無駄口を叩くような男ではない。
「昼は?」
「頂きました。--行ってらっしゃい」
「行ってくる。報告書を提出したからひょっとすると誰か来るかも知れん」
「出直してもらうように伝えますよ」
ニッコリと愛想よくそう言って、ホームズは去っていった。天丼。かき揚げか、海老か、と考えながら歩く柳生の携帯が震えた。モリアーティーからだ。
「班長、一緒にお昼どう?」
「ついでに検挙か?」
「そう。みよしで待ってるから。先方も来るし早く来てね」
昼食はいつになることか。柳生はため息をつきつつ、歩を早めた。