寝物語でもないものの、閨にふたり入りタブレットを見ながらあれこれ由無し事を語り合った果て。
「神無月か」
端末に示された暦を見た但馬が感慨深げに呟いた。
「ここだと分からなくなるよね」
辺り一面が白く覆われ続けるこの地では、風景も変わらない。端末の示すそれだけが頼りだった。表示自体は、もともと天文台を名乗るだけあって各国の暦が充実している。
「古楓橋も見頃かなー」
「おそらくは。年によっていささかのずれは生じようが」
そう言いながら但馬が端末の電源を落とす。
「その色そのものは年中愉しめるといえ、なかなかに」
わざわざ再現するぐらいだから、郷愁というものがあるのかもしれない。真面目くさった顔でさらりと髪を撫でる男の手に頬を寄せながら、
「……一緒に観に行こうね、本物」
立香が小さく秘密ごとをするように誘うと、
「喜んでお供つかまつる」
こちらもいたずらに微笑んで返答する。どこかくすぐったい空気のまま、立香の手が灯りを落とした。