落穂ナム
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10時に、と待ち合わせたはずなのに。10分経っても待ち人は現れない。
(やっぱりいつもと同じ格好の方が良かったかな)
駅のガラスに映る立香の装いは、いつもより少し大人っぽくて女性らしい。跳ねる髪は編み込んでまとめて、スカート丈もいつもより少しだけ長く。普段はさっとリップで血色を出すだけのメイクも、今日は少し目元に影を入れている。
その自分の姿がおかしくはないことを確認してから、立香はもう一度ぐるりとあたりを見回した。先程から待ち合わせと思わしき人たちはどんどん挨拶を交わしながら改札に入っていく。あれだけ背の高い人だから見つからないはずは、と思っていると、ずっと反対側の出口の柱の横にいた男と目があった。グレーと白のストライプのTシャツに黒テーパード、ハットと黒縁の大きめフレームの眼鏡ーー
「あ」
よくよく顔を見ると、マスターだった。向こうも目を丸くした様子でこちらに近づいてくる。
「すまん」
「いえ、私こそ」
言いながら、お互いまじまじと見つめ合う。
「……っふ」
「ふふふ」
どうやら同じことを考えていたことに気づいたふたりは、くすくす笑いながら手に手を取ってようやく歩き出したのだった。

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「こっちに一如して」などと言っていたらドメインが取れることに気づいてしまったので作ったインスタンス