落穂ナム
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「但馬ってほんとにお殿様だよねえ」
ぐいと抱き寄せられた立香が、その腕の中に半ば収まりながら言った。おそらく不満があることはわかるが、その言葉だけでは掴めない。考える顔になった但馬をちらりと見上げた娘は、
「強引なところも好きだけど」
と小さく付け加えた。なるほど、もう少し優しくせよということか、と但馬は納得する。十分に加減しているつもりであったが、細やかなところが男と女では感覚が違うのかもしれない。
しばしの間を置いて、但馬の両手が背中から立香の頬へ滑る。身をかがめ、
「これは失礼仕った」
できうる限りの柔らかな声で詫びると、立香が目を丸くした。手のひらで包んだ頬が染まる。
「う、ううん、別に……」
「なれば、口付けてもよろしいか」
伺いを立ててから、これもまた不躾であったか、と但馬は一応反省した。一応、というのはすっかり泳いでいる主人の目が微笑ましさに過ぎたからだ。
但馬は頬を、耳朶をあまり欲の混ざらぬようただ愛おしむように撫でて立香の返事を待つ。娘の金の瞳がひたりと見つめ合うように定まった。ようやくその唇を重ねることを許された但馬は、柔らかな心地のまま口付けたのだった。

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ichinyo.site/但馬守に斬られたい人たち

「こっちに一如して」などと言っていたらドメインが取れることに気づいてしまったので作ったインスタンス