血と肉の焦げる匂いが離れない。こういう仕事に就いた以上、いつか目の当たりにするとは思っていたけれど、思っていた以上にきつかった。現場保全もあるので離れられないのが辛い。
「はじめてか」
いつもの無表情で柳生警部が聞いてきた。警部なのにこんな現場に出張るのは趣味か、あるいは実益か。聞いてもそれはそれで気分が悪くなりそうだったので、やめた。
「大丈夫です」
ちぐはぐな返事を返したからだろう、少しじっとこちらを見つめてから、そうか、とだけ返ってきた。
やっとパトカーの音がして、様々引き継ぎをして、署で所定の報告を上げたらもう深夜だった。忙しさが落ち着くと昼間の現場の陰惨さが脳裏に蘇る。食欲もないあたり、
「やられてるなぁ……」
溜息が出る。我ながら、結構太い方だと思っていたのだけれど。
「おい」
通用口を出たところで柳生警部の声がした。
「ちょっと付き合え」
「--わたし、」
気分が優れないので、という間も無く助手席に押し込まれる。
一体何なんだろう。この人は、わたしを一体なんだと思っているのだろう。
無性に腹立たしかった。けれど。煙草のにおいが、すこし、昼間の惨劇の香りを消した気がした。