落穂ナム
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いつものようにぽんぽん言葉が飛んでくるかと思ったが、予想に反して藤丸は黙々とつまみを摘んだ。たまに口を開いたかと思えば、
「じゃがいものおでんって美味しいんですねえ」
だとか、
「生牡蠣もいいですか」
だとか、ひたすら食い気に偏っている。好きに頼めばいい、そう告げると、あっという間に第一陣の注文を平らげて牡蠣と揚げ出し豆腐に銀杏の塩炒り、追加の熱燗を頼んでいた。
「よく食うな」
思わず言葉にすると、
「最後の晩餐になるかもしれませんので」
酒に酔った赤い頬を晒しながら、それでも真顔でそう言った。なるほど、ある程度の覚悟はしてきたらしい。
「応援を頼んで捕らえればいいだろう」
カマをかけてみたが、
「そんな伝手がないことはご存知かと」
と酒をあおる様は嘘のようには思えなかった。
今、真実は己と藤丸の間にしかない。この小上がりの膳の上、差し向かった空間にしか。
「なんでなのか、聞いてもいいですか」
ぽつりと藤丸が尋ねてきた。見つめる瞳を見つめ返して答えを探したが、
「……一言では言い表せん」
「面倒?守秘義務?黙秘?」
「さて」
全てを話してもよかったが、うまく説明できる気がしなかった。

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「こっちに一如して」などと言っていたらドメインが取れることに気づいてしまったので作ったインスタンス