落穂ナム
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それきり、警部は黙って何も言わなかった。まあ予想通りではあるけれど、欲しい答えを何ももらえていない。警部ほどの人が、どうして。いつから。なぜ。誰の差し金で。頭の中を疑問が埋め尽くす。酔いが回ってきて、次に問いかけることを決めていたはずなのに忘れてしまった。警部はと言うと、酔った様子もなく熱燗とへしこを頼んでいる。
すっかり手酌で酒を注ぐその手つきを見ていると、
「藤丸」
「……はい?」
不意に話しかけられた。
「今日は外回りだったか」
「あ、はい。例の件の取引に」
警部が今日動くとは思っていなかったけど、結果的には間に合った。それが何より嬉しい。しかし。
「動くときは?」
ぴしりと声が飛んできて、ちょっと目をそらさざるを得ない。
「……ツーマンセル」
「次からは俺も呼べ。君の邪魔はしない」
付け加えられた言葉に思わず警部の顔を見る。相変わらずの仏頂面だった。
「それが君の正義なんだろう」
見つめ合い重ねられた言葉に、警部は警部でなにかしらの正義に基づいているのだと知る。
「私を泳がせるんですか」
問いかけると、警部はしばし瞑目してから、
「危険な目に合わせたくない」
そう宣った。

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「こっちに一如して」などと言っていたらドメインが取れることに気づいてしまったので作ったインスタンス