落穂ナム
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数刻前に口を封じるか考えておきながら危険な目に合わせたくないとは我ながらおかしな話だったが、本心である以上仕方なかった。言われた藤丸も固まっている。挙句出てきた言葉が、
「……警部、酔ってます?」
なのだから、赤い顔をしながらなかなかに頭が回っている。
「かもしれんな」
肯定しておいて、締めとデザートを頼んだ。

自分が誘ったのだからと財布を出そうとする藤丸を遮って、会計を済ませ店を出る。昔ながらの街並みの夜に、遠く火の用心の拍子木が響いていた。ぶらぶらと人気のない坂道を下る。横を歩く藤丸が、
「殺さないんですか」
と、あたりに響かない声の大きさで単刀直入に尋ねてきた。白い息の向こう側、見上げられている気配に立ち止まる。やはり、いつものまっすぐな目でこちらを見ていた。
「……君こそ、縄にかけないのか」
視線をぶつけたまま尋ね返す。酔いがほんの少し冷まされるほどの間の後、
「捕まえたいわけじゃないんです」
最高の答えで、とんだ告白だと思った。ああも職務に熱心な藤丸が。正義と信念を超えた別枠だと言われたようなものだったが、本人は至って真面目で気づいている様子はない。
「……俺も同じだ」

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ichinyo.site/但馬守に斬られたい人たち

「こっちに一如して」などと言っていたらドメインが取れることに気づいてしまったので作ったインスタンス