落穂ナム
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ちょうど信号に引っかかった。立ち止まると寒さが骨身に染みて、マフラーを少しきつめに巻き直す。
「そ、の、節は大変、失礼、しました」
きちんと思い至ったようで、ちらりと見ると藤丸は俯き加減になっている。あの翌朝の傍若無人さと、このギャップがなんとも面白かった。
「緊急避難だ、仕方ない」
あれから何度か現場に出たが、そう参った様子ではなかったあたり、うまく乗り越えられたのだろう。毎度となると流石にこちらも欲求不満になりかねなかったから、助かった。
藤丸が不意に顔を上げた。
「いま」
やけに勢い込んでいる。今?
「今その話をされたのはどういうことでしょうか」
ほんの少し、警戒するように距離がとられた。
「好きなものの話だろう?」
こう寒いと温もりが恋しい、とまで言ってしまうとハラスメントになりかねないので自重した。しばらくじっとりと見上げられたが、
「私もこないだ、大型犬を招いたら一緒に寝てくれて。とってもあったかかったです」
意趣返しのつもりなのか、藤丸はそんなことを言って青になった信号を渡っていく。
「それは何より」
寒風吹く夜、ニヤリと笑うような月が冴え冴えと藤丸の上に輝いていた。

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「こっちに一如して」などと言っていたらドメインが取れることに気づいてしまったので作ったインスタンス