落穂ナム
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床につく直前、できれば今夜は手だけ繋いで欲しい、と主が言った。
「但馬がしたかったらしてもいい、けど」
伺うような目をせずとも、そう毎日女を抱かねばおさまらぬような年でもない。直裁に告げようとして思いとどまり、
「御意のままに」
許された手をとって布団をめくると、薄く微笑んだ娘が潜り込んだ。深く浅く、動きの邪魔にならぬ程度に指の離れぬよう、絡めながら触れ続ける。
女武者の類はままあれど、主のような人物にお目にかかったことはなかった。益荒男のような女でも、手弱女のような女でもない。その間かと言われるとそれもまた違う。ただ、人の温もり、あるいは人そのものを何より大事に抱えて生きているーーその手指と同じ、柔らかな人であった。
己の身も布団の中に潜り込ませて取ったままの手を改めて握り直す。
「寝にくくない?」
「手元が暖かくむしろ眠りやすいかと」
温石を握ったときのようなじわりとした暖かさにうっすらと眠気が訪れるのを感じていた。この身体は眠りは不要と聞いていたが、主に添い寝するとどういうわけかよく眠れる。思わず欠伸をすると、主が柔らかく目を細め、そして瞼を閉じた。
「おやすみ」

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ichinyo.site/但馬守に斬られたい人たち

「こっちに一如して」などと言っていたらドメインが取れることに気づいてしまったので作ったインスタンス